茶杓の美

2012.05.22

 光琳 の燕子花の余韻も醒めぬまま 根津美術館 二階へと向かった。

 一番奥の展示室では 季節の 茶道具の取り合わせ が展示されていた。

 その中に 魅力ある茶杓 が一本 横たわっていた。


茶杓・・・・
 茶道具で 茶入、茶器の中の抹茶をすくって茶碗に移す匙で 竹 材がほとんどで、他に象牙、木地、塗物がある。


 お茶に関わったことのない方が見れば、単なる 竹っぺら の耳かき にしか見えないであろう(笑)


 ところが この 竹っぺら なかなか奥が深い。
 
 いつの頃からだろうか・・・  
この 竹っぺら に魅力を感じ始めたのは・・・

 私も 茶道にたずさわって二十年以上の歳月が流れたわけだが、 耳かき が好きになるまでには、かなりの時間がかかった。


 この茶杓 の銘は  五月雨
       作者は  小堀遠州
 
江戸時代初期の武将で 三代将軍 家光の茶道指南役である。
 利休から見れば 孫弟子、 へうげもの の古田織部の弟子である。

 この 茶杓 の筒にはこんな洒落た 和歌 が書いてある。


 星ひとつ 見つけたる夜のうれしさは 月にもまさる 五月雨のそら


 イカしてません? 

しかもこの 茶杓 には 節から切止(茶杓の末端)へ降りていった左側に 一ミリ くらいの虫食い(虫が食って丸く穴があいている)がある。 遠州はこの虫食いを 星に見立てたのだ。
 茶杓 の虫食いを先に見つけても 筒の 和歌を先に詠んでも どちらが先でも まったく洒落ている。 
 
 私を 茶杓の美 の魅力へ誘ってくれたのは、 小堀遠州 の茶杓たちだ。

 遠州の茶杓は 竹 そのものの景色から選び抜かれていて、杓の半分が白竹、半分が濃い茶色に色替わりしたものや、節から上は煤竹、下は白竹になっているものや、また、竹のソゲている部分を使ったものなど、本当に綺麗な景色に富んでいて、それまで茶杓とゆう道具になかった 芸術性を生み出し脇役になりかねない この 竹っペラ を 主役の一人として迎え入れたのである。

 そして この 茶杓の美 は 杓だけでは完成しない。
 
 筒だ。 筒は 茶杓の美 の最大の魅力の ひとつだ。
 筒に書かれた 歌銘 の 美。 これなくしては 遠州 の茶杓は語れない。

 藤原定家 の定家様の字体で書かれた和歌。この定家様は まさに芸術だ。 真似しようと思ってもできるものではない。その定家様で書かれた和歌がこんな イカした 歌なら尚更 魅力倍増で 五月雨 の前を 行ったり来たり・・・
 なぜだか胸が締め付けられる思いで 往復していた。

 小堀遠州 は今でいえば建設大臣で数々の城を造り 素晴らしい 庭園を手がけ、茶道具も 中国や韓国、そして オランダへと注文を出して作らせている。
 
 遠州の茶道は 「綺麗さび」 と言って称されるが、私はこの「綺麗さび」の象徴は 茶杓 である。と強く思っている。

 畳の目 十二目・・・・
茶杓の長さだ。 この わずか 十二目 の中に 遠州 は自分自身の宇宙を取り入れた。

 五月雨のそら  は 宇宙(そら) かもしれない。


 茶杓 それは 杓、筒、箱 これらが揃って 魅力を増大し、間違いなく お茶 の主役のひとり である。



 また 茶杓を見るのが楽しくなりそうだ。 
 
        宗超